仕事で鉄部分にネジ等を使わずにくっつく治具を作りたいという案件があり、材料の知識は全く無い私がなぜか参加して色々悩んでいました。
材料に詳しい方は悩まずに、ぱっと分かるかもしれないのですが、あれでもないこれでもないと悩んだのでその備忘録です。
会社での出来事ですので写真はありません。
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「永久磁石みたいな磁化できる材料がいいよね」という話になりましたが、永久磁石であるフェライト磁石やマグネットシートは加工が難しく高温には耐えられないということで速攻却下。
アルニコ磁石やサマコバ磁石はコストに見合わないということで却下。
他にも永久磁石の材料は色々とありますが、入手性が悪すぎるということであれもこれも全部却下。
じゃあ何があるんだよ!と言いたくなっていましたが、求めているのは入手性がよく比較的安価な材料から選んでほしいとのこと。
そこから色々と悩むことになるんですが...
目次
前提知識
永久磁石ではないですが、磁気が残留しやすい鉄材は炭素等の不純物が多いものだそうです。
確かにドライバーのビットとかは着磁するとしばらくは磁石になりますね。
六角レンチなどの工具鋼も磁化できます。
すると高炭素鋼、それも炭素が多ければ多いほどがいいのかな?と考えられます。
ちなみに着磁装置も自作したのですが、それはまた別の機会に。
こちらも色々と苦労がありました...
磁化する材料
SS400(一般構造用圧延鋼材)
SS400はよく耳にする安価な鋼材です。
ですが、炭素はあまり含まれていません。
今回作ろうとしている治具は丸物なんですが、うちの会社ではSS400の丸材はあまり買わないのでとりあえず板材で試してみることに。
結果はまったく磁化しません。
永久磁石というよりは電磁石に使う方がいいのでは?というレベルで磁化しません。
実験としてゼムクリップの山に材料を入れてどれだけくっついてくるかを見ましたが、クリップは1つもついてきません。
やはり不純物が物を言うということが分かりました。
S45C(機械構造用炭素鋼鋼材)
S45Cはその名の通り0.45%くらいの炭素が含まれている鋼材です。
ちょっとだけ炭素が含まれています。
よく使うので端材も手に入れやすいです。
転がっていた端材を着磁してみると、かなり弱いですが磁化しました。
ただしゼムクリップが1個だけ付く、くらいの超弱い磁力で実用性はありません。
焼入れしてみたらなんか変わるんじゃね?という根拠のないアイデアを元に焼入れしてみると、もうちょっとだけ付くようになりました。
ただしそれでもゼムクリップが2,3個がギリギリつくようになったくらいで、実用的ではありません。
SK105(炭素工具鋼鋼材)
もっと炭素が含まれているものはないのかと、色々探していたら「これだったらどう?」と渡されたのがSK105です。
SK材は工具鋼ですので、その名の通り工具にも使われています。
工具に使われているということは、磁化するのでは!?と少しの期待を含めて着磁してみました。
結果は、ちょっとだけ磁化しました。
ただ、S45Cよりは磁化してるかなあ?くらいで実用には欠けます。
ゼムクリップは3個くらいが付くくらいです。
SUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材)
SUJ2はベアリング等で使われている鋼材です。
炭素は1%ほど含まれていて、クロムも1.5%ほど含まれています。
行き詰まってきたのでなにかないのかと、試しにベアリングを着磁してみたんですよ。
するとめちゃくちゃゼムクリップがくっつくじゃないですか。
ほぼ永久磁石と言ってもいいほどの磁力でしたので、これだ!とSUJ2の丸棒を買って磁化してみました。
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結果は、ちょっとだけ磁化しました。
ベアリングを着時した時とは裏腹に、ゼムクリップは5個ぐらいしか付きません。
少しだけ期待していたのですけどね...
SKD11(合金工具鋼鋼材、ダイス鋼):焼入れ済
さらに「これならどうだ!」と渡されたのがSKD11です。
SKD11は炭素が1.5%、クロムも12%と不純物がかなり多いです。
これは期待できそうと成分表を見て心が踊ります。
すでに焼入れしている材料でしたが、一応着磁してみるとめちゃくちゃ磁化しました。
ゼムクリップは表面にびっしりとくっつきます。
この材料が良いのでは、と第一候補になりました。
SUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材):焼入れ済
そういえばベアリングって焼入れしてるよな?とSUJ2で作ったものに焼入れしてもらいました。
その焼入れしてもらった材料で着時してみると、めちゃくちゃ磁化しました。
実用的にも十分な磁力を持ったので、どうやら焼入れが重要だということを確信できました。
SKD11かSUJ2を加工して焼入れするのがいいようです。
鋼材が比較的強い磁力を持つようになる条件
色々試してみてわかったことは、鋼材が強い磁力を持つようになるには不純物が多いというだけではなく結晶構造にも条件があるようです。
オーステナイトとかマルテンサイトとかそういうのは正直あまり分からないですが、どうやら結晶構造がマルテンサイトだと磁化しやすいのかもしれません。
焼入れすると結晶構造はマルテンサイトになるみたいですし。
ただ、不純物が多いというのは炭素がキーポイントなのかクロムなどの別の不純物でもいいのかは、はっきりとは分かりません。
とは言ってもSUJ2はクロムが1.5%程度とSKD11と比べて炭素量は少ない材料ですが、しっかりと磁化しているので炭素の影響は大きいことが分かります。
結局SKD11かSUJ2を使って治具を作ることになりました。
どちらを選ぶかはコストの話になるので、そこは別の方にお願いすることにします。
実はこれ以外にも金型用の鋼材も試してみたのですが、SK材と同じような結果でした。
もっといい材料があるかもしれないですが、とりあえずは着地できたのでホッとしています。
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